http://mainichi.jp/life/health/news/20090416ddm013100148000c.htmlがんを生きる:働き続けたい/下 仕事と治療、両立目指し 【毎日新聞 2009/04/16】
◇支援制度導入する企業−−専門家は啓発の重要性指摘
「産業医やカウンセラーなどケア体制が整った職場だったら仕事を辞めなかったと思う」
直子さん(49)=東京都武蔵野市、仮名=は昨年5月、勤めていた外資系の銀行を退職した。約9年前に全摘出手術をした乳がんの再発が理由だ。
症状が安定する目安とされる「10年」まであと8カ月だった。「今まで十分働いた。残り何年あるか分からない命。貯金を崩しながら、やりたいことをやって過ごそうと思った」
短大卒業後、東北に本店がある銀行に入行した。以後、外資系銀行ばかりで転職を重ね、5行目は4カ月後に開業予定の銀行だった。開業準備の忙しさに加え、採用された150人のうち銀行業務を知るプロはわずか数人という心もとない状態。疲労といら立ちはピークに達した。専門医に相談したかったが、行内に相談機関はなく、外部の心療内科は行きづらかった。「がんで辞めたと言うより、精神的なつらさに耐えられなかった。職場で気軽に相談に行ける場所があったら救われた」と振り返る。
パートナー(56)と2人暮らし。仕事を離れ、専業主婦となり、気持ちのゆとりを取り戻した。半面、取り残されたような気持ちにもなる。マンションの窓から出勤の人波を見るたび、「私は何をやっているのだろう」と自問した。失業保険の給付期間も4月いっぱいで終わる。
仕事を再開し、ストレスで症状が悪化しないか不安は消えない。でも、社会に出て働くことは、自分の存在を確かめる証しだったのだと気づいた。直子さんは1月、人材派遣会社など7社に登録し、求職活動を始めた。
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クレディセゾン(東京都豊島区)は08年9月、労働時間を短くする「短時間勤務制度」の対象者を、従来の育児・介護者から、がんやうつなどの傷病者にも広げた。治療や検査のための通院時間を確保しやすくするためだ。
「病気を理由に、社員の可能性をゼロか100かで見切るのはおかしい。さまざまな個性をもつ社員が活躍できる集団は強い。本人に働く意欲があるなら、見合う処遇や制度運用に変えればいいだけ」。提案した同社人事部長の武田雅子さん(41)は説明する。
武田さん自身も5年前の春、乳がんの乳房温存手術を行った。当時、人事・営業の両課長を兼務する傍ら、放射線とホルモン治療を受け、その影響で一時的にうつも経験した。
08年3月、人事部長に昇進した。以前から、心の病を抱える社員が増え始めていると感じていた。4月から社員のメンタルケアに本腰を入れようと、嘱託だった女性産業医(30)を正社員として採用した。日ごろから社員と深くつき合い、組織の仕組みも学んでもらうため、産業医は健康管理室でなく、一般社員と同じフロアで机を並べている。
武田さん自身も産業カウンセラーの資格を取った。さまざまな心身状態の社員が、働きやすい職場環境を作れば、貴重な戦力を失わずに済む−−。短時間勤務制度の拡充もそんな思いから生まれた。
短大中退後、フリーターなどを経て、89年に中途採用で入社した。業績が振るわない店舗に派遣されては立て直し、何度も表彰された。自分なりに頑張って実績を築いてきたつもりだったが、「がん患者の武田雅子」と枕ことばがつくのに戸惑った。「がんはあくまで私の特徴の一つ。がんを特別視されるのは不本意」
一方で、がんになったことで、同僚のサポートのありがたさを改めて知った。武田さんは手術の影響で、右手を長時間使ったり、重い物を持つことができない。連日、1日がかりで15人前後の学生と面接する採用試験では、武田さんの後ろに部下が交代でつき、学生とのやりとりを筆記で記録してくれた。出張の際は、武田さんの荷物を事前に現地に送り、手ぶらで行けるよう手配してくれた。「みんなが『部長をこけさせちゃいけない』と支えてくれているのが、うれしかった」
労働人口が減る中、がん患者を働かせない社会はおかしいと、支援体制の整備に取り組む武田さん。一方で、「がん患者も会社にいるからには成果を上げなければいけない」と強調する。「私はがんを経験してとても強くなった。ハードな体験をした人は多少のことでは折れない。がんの経験を『降参』の白旗を揚げるのに使うのでなく、自分の中で強さとして昇華させ、仕事に生かしてほしい」と願う。
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治療と仕事のどちらかを犠牲にするのではなく、それぞれを尊重する社会が求められている。東京大付属病院放射線科の中川恵一准教授は「がん患者が上司に言われる言葉で一番多いのは『完全に治して出てこい』だが、がんは治癒の定義や判断が難しく、患者にとっては『二度と出社するな』と言われたのに等しい」と指摘。「義務教育の段階から授業でがんの正しい理解を広めるとともに、がんとつき合いながら仕事ができるよう、就労時間に柔軟性をもたせたり、休暇をとりやすい労働環境づくりが必要だ」と話す。【清水優子】
◇「短時間勤務」未導入5割
現在の育児・介護休業法は企業に対し、短時間勤務▽残業免除▽託児施設の設置▽フレックスタイム(変形労働時間制)導入▽始業・終業時刻の繰り下げ・繰り上げ▽1歳以上の子どもを対象にした育児休業−−の六つの支援策から一つを選び、導入するよう義務づけている。これらは3歳未満の子供がいる従業員が利用できる。
厚生労働省の調査(07年)によると、育児のための短時間勤務制度を導入していない事業所は50・1%と半数を占めた。導入していない主な理由として「制度の対象となる従業員が少ない」「短時間勤務のニーズがない」などを挙げた。一方でこれらの企業の従業員の約4割は「制度があるなら利用したい」と答えるなど、利用者側の要望に応え切れていない実情が浮かび上がった。
テーマ:社会問題 - ジャンル:ニュース
- 2009/04/17(金) 01:03:56|
- 介護福祉/看護/医療関連
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