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外国人研修生の「現代版女工哀史」
【ダイヤモンドオンライン 2008/09/18】
中小企業に酷使されて保護を受ける外国人研修生が後を絶たない。8月に山梨で発生した「テクノクリーン事件」は象徴的なケース。
「腕をつかまれたまま引きずられました。今でも痛くてしかたありません」
そう言いながら段艶紅さん(31歳)は右腕を見せた。上腕部の内側は内出血で青く腫れ、引っ掻いたような傷跡が生々しく残っている。
「こんな暴力は絶対に許せません」
段さんは、しゃくりあげながら何度も右腕をさすった。
胡菊花さん(35)は、両膝に打撲を負った。「怖かった」と繰り返しながら、強張った表情を崩さない。
そしてもうひとり、張愛霞さん(37)にいたっては、右足首を骨折した。
「なぜ、こんな目に遭わなければいけないのか」
3人の女性は、ともに中国湖北省の出身。山梨県昭和町のクリーニング工場「テクノクリーン」(資本金3000万円・従業員45人)で働く技能実習生である。
“事件”があったのは、去る8月22日の早朝のことだった。
会社の寮で就寝中だった彼女たちの部屋に、突然、同社の内田正文社長をはじめとする社員ら10数人が押しかけ、殴る蹴るの暴行を働いたのである。
時給わずか300円で15時間労働!
「偽装研修」の呆れ果てた実態
いったい、なぜ、このような事件が起きたのか──。
彼女たちは、わが国の「外国人研修・技能実習制度」に応募し、2005年12月に研修生として来日した。3人の目的は「日本で最先端の縫製技術を学ぶこと」だった。
配属された「テクノクリーン」は、同制度の対象職種である「婦人子供服製造」の会社として、監督機関であるJITCO(国際研修協力機構)に中国人研修生の受け入れを申請。彼女たちを“縫製要員”として受け入れていた。
ところが実際には、彼女らに与えられた仕事は作業服や作業靴の洗浄などのクリーニング業務ばかり。縫製作業などは一切なかった。
「そもそも会社にはミシンなど1台もありませんでした。たまにJITCOの担当者が巡回調査に訪れましたが、そのときだけよそからミシンを借りてきて、急ごしらえの“縫製室”が作られました」(段さん)
まさに“偽装研修”だった疑いが強いのである。
しかし問題はそればかりではなかった。彼女たちは、信じられないような低賃金労働を強いられたのである。
研修生としての1年間、基本給はわずか5万円で、研修生に対して法律で禁じられている残業も押し付けられた。残業代を時給に換算すると、「わずか300円」である。
しかも勤務形態は、午前8時半から夜10時までの超長時間労働。深夜0時まで働かされることもあった。そのうえ「土日出勤は当たり前」という状況だった。月に1日程度の休日しかもらえないこともあった。土曜日には、残業代の代わりに米と生活用品が支給されたという。
来日2年目からは労働法が適用される実習生に“昇格”したが、待遇はほとんど変わらず。残業代の時給が、わずかに50円から100円に増えただけだった。
前述したようにJITCOの巡回調査もあったが、彼女たちは内田社長ら会社幹部から「本当のことを言ったら、中国に帰国させる」と脅され、巡回の担当者には「基本給は11万円、残業は月に33時間」などと答えざるを得なかったという。
だが、もう我慢も限界に達していた。実習期間の満了まであと4ヵ月に迫った8月20日、ついに彼女たちは立ち上がった。同期の実習生6人の連名で「要望書」を会社側に提出したのである。
「要望書」では過酷な労働条件の改善と正当な賃金の支払いを訴え、書面の最後には次のように記した。
「私たちはテクノクリーンに3年間在籍中、日本人より長時間勤務を要求され、仕事を頑張ってきました。でも、得たものは不公正な対応ばかり。金銭面においても労働条件においても、会社の対応はとても納得が行くものではありません。私たちは会社の対応に理不尽さと怒りを感じています」
報復措置を受けたあげくに強制送還
恐怖におののき骨折する研修生も
しかし、会社側は誠意ある回答を示さなかったばかりか、あろうことか“報復”という行動に打って出たのである。
8月22日の早朝に彼女たちの部屋を襲った内田社長らは、「今から全員、中国に帰す」と言いながら、逃げようとする実習生を力ずくで押さえつけ、抵抗すると殴る蹴るの暴力をふるった。6人の実習生はそのままマイクロバスに乗せられ、成田空港まで連れて行かれることになった。
しかし、バスのなかでも実習生が逃げようと抵抗したため、“強制送還”は翌日に延期されることとなり、寮に連れ戻された。その日は寮の前に“見張り”の社員が配置され、事実上の監禁状態となったが、隙を見て段さんら3人が脱出。張さんは寮の2階から飛び降りて逃げようとしたため、着地した際に骨折したのだ。
3人はそれぞれ、何1つ荷物を持たずに裸足のまま逃げ出し、夜はブドウ畑のなかで身を潜めるなどしてしのいだ。
その後、たまたま近くを通りかかった人に“救助”され、最終的に外国人研修生・実習生の支援活動を行なう「全統一労働組合」(東京)に保護されることになったのだ。残る3人の実習生は“襲撃”の翌日、中国へ帰国させられてしまったという。
全統一労組の鳥井一平書記長は、怒りを露にする。
「(彼女たちから)話を聞けば聞くほど、怒りがこみ上げてくる。まるで人間扱いされていない。奴隷状態も同然だ。これは完全に犯罪ですよ」
今回、彼女たちの支援に立ち上がった中国人ジャーナリストの莫邦富(モー・パンフ)氏も次のように話す。
「まさに現代版の『女工哀史』ともいうべき事件。世界第2位の経済大国で、このような悲惨な労働環境が存在することを直視しなければならない」
9月2日、段さんら3人は逮捕監禁致傷、傷害の容疑で「テクノクリーン」の内田社長ら5人の社員を山梨県警南甲府署に刑事告訴した。内田社長は筆者の取材に対し、労働法に違反した低賃金で働かせていたことは認めたものの、暴行に関しては「ノーコメント」を貫いた。
また、監督機関であるJITCOは「巡回指導の際、特に問題があるようには見えなかった。捜査の推移を見守りたい」と回答している。
ちなみにJITCOによると、山梨県を含む南関東エリアの実習生受け入れ事業所(1564社)を担当する職員は、わずか7名に過ぎないという。このような体制で、満足な巡回指導などできるわけがない。今後、監督機関としての責任も問われることになるだろう。
法律を遵守する企業はごく一部?
現地では悪徳ブローカーが「人集め」
こうした外国人研修生・技能実習生をめぐるトラブルは、なにも「テクノクリーン事件」ばかりではない。実は、各地で続発しているのが現状なのだ。
最近も、奈良県山添村にある住宅機器製造会社で働く中国人実習生5人が、「人権侵害を受けた」として、勤務先企業における外国人研修生の受け入れ停止処分を大阪入国管理局に求めた(9月11日)。
実習生によると、水道もない老朽化した寮での生活を強いられ、なんと飲料水として屋根にたまった雨水を飲まされていたという。しかも賃金は、県の定める最低賃金を下回っていた。
また熊本県では、劣悪な条件で働かされたとして、中国人実習生4人が天草市の縫製会社などを相手取り、約3580万円にも上る未払い賃金の支払い訴訟を起こしている。
ほかにも、研修生・実習生が各地の労働基準監督署に低賃金への不満を訴えて駆け込むケースは、増える一方だ。東海地方のある労働基準監督官によると、「研修生の相談が増えすぎて対応に手が回らない」という。
相談例の多くは賃金に関するもの。特に残業代の時給が300円程度というケースがほとんどで、「法定最低賃金を遵守している受け入れ企業など、ごく一部ではないのか」とこの監督官は憤る。
さらに「脱走防止」を目的としたパスポートや預金通帳の取り上げ、パワハラ、セクハラ、暴力を伴った強制帰国の強要など、悪質な事例が目立つのも研修生問題の特徴だ。
研修生・実習生の人権問題に取り組む「外国人研修生権利ネットワーク」の高原一郎氏が、次のように説明する。
「不況業種の経営者が、人材不足と人件費削減を目的に、研修制度を利用しているのが実情だ。経営者の多くは、発展途上国出身の外国人に対する差別的な意識を持っている。研修生・実習生は労働者として認められることもなく、企業への服従だけがを迫られる。まさに奴隷労働に等しい」
そもそも「外国人研修・技能実習制度」は、外国の労働者を日本に受け入れ、途上国の人材育成に貢献することを目的として、1990年に創設された。最初の1年間は研修生として学び、その後企業と最長2年間の雇用計画を結んで労働者として実習する制度である。
現在、日本に滞在している外国人研修生・実習生は、中国人やベトナム人を中心に約18万人。その多くが縫製、建設、水産加工、農業などに従事している。
しかし“建て前”通りの「人材育成」を目的に、「研修」「実習」が行なわれているケースはまれだ。研修生・実習生を雇用中のある縫製業者は言う。
「斡旋業者から『安い労働力が欲しくないか』と持ちかけられて、研修生を受け入れた。外国人を『育成』するだけの余裕など、零細業者にあるわけがない。ただ働き手が欲しいだけです」
実際、外国人研修生を斡旋する各地の受け入れ業者やブローカーは、「人件費削減の切り札」「人材不足の解消」といったセールストークを掲げて企業回りをしているのが実情なのである。インターネット上で「安くて優秀な労働力を活用しませんか?」などと呼びかけているところも少なくない。
筆者が知っているある受け入れ業者は、「時給300円で深夜まで働きます」などと、研修生受け入れの“メリット”を説いて売り込みをしていた。
制度創設の目的とされた人材育成、国際貢献といった言葉など、どこにもないのだ。その実態は、中小企業が低賃金の単純労働者を調達するための手段でしかない。これではトラブルが続発するのも当然だろう。
さらに、研修生を送り出す側の国でも、現地ブローカーが農村部をまわり、「日本で稼がないか」などと甘言を弄して、研修生確保のリクルート活動をしている。その際、手数料として100万円近くの金を徴収するケースも少なくないというから、驚きである。
呆れたことに、送り出す側も受け入れる側も、「研修生を利用することしか考えていない」のである。
昨年、米国国務省は「世界の人身売買の実態に関する報告書」のなかで、日本の研修制度を取り上げ、「一部の外国人労働者は強制労働の状況にある」と指摘している。
米国に叱られるとわが国の政府も重い腰を上げるのか、昨年から今年にかけて、関係省庁はそろって「改善」に向けて努力する方針を示した。しかし、フタを開けてみれば現状は何も変わっていない。
「ずっと日本に憧れていた。その憧れの国で、こんな仕打ちを受けるとは思わなかった・・・」
腕に怪我を負った前出の段さんは、後悔の念を口にする。
わが国は、いったいいつまで「女工哀史」を続けるのだろうか。
(ジャーナリスト 安田浩一)
テーマ:社会問題 - ジャンル:ニュース
- 2008/09/19(金) 00:00:43|
- 日系人/外国人労働問題/外国人研修生
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