公契約条例制定に向けて開かれた市民説明会=尼崎市立労働福祉会館 |
自治体の仕事の一部を請負契約や派遣契約で外部委託する際などに、自治体と事業者で結ぶ「公契約」について、労働者の最低賃金などを条例で定めようとする動きが尼崎市内で活発になっている。特に社会問題化している非正規職員について「財政難も理解できるが、働く人の最低限の生活を守るルールづくりが必要」と一部の市議らが中心になり、たたき台となる素案を作成した。意見を集約し、12月定例市会にも議員提案する方針だ。公契約をめぐっては、昨年7月に東京都国分寺市が基本指針を策定するなど動きが広がりつつあるが、条例化されれば全国初となる。(岡西篤志)
12月市会にも市議ら提案
同市では二〇〇六年九月、請負契約を結んでいた市民課の住民票入力業務で、一般競争入札の結果、事業者が代わった。これにより、入力業務を担っていた人らの時給が千六十円から九百円に引き下げられた。その後、市職員が職務内容を指示する偽装請負が発覚。市は、市職員が指示できる派遣契約に切り替えた。
この問題などが発端となり、同十二月には一部の市議らが最低保障賃金を定める条例制定に向けて話し合いを開始。さらに〇七年五月には、連合尼崎地域協議会から「尼崎市の契約および公正労働基準確保に関する条例の制定を求める陳情」が市会に提出され、同十月の本会議で採択された。同十二月には約半数の市議で「尼崎市に公契約条例を実現させる議員の会」が発足し、今年九月に素案をまとめた。
素案では外部委託の仕事を担う人の給与について「市の行政職の高校卒業初任給基準を下回らない」と明記。同市給与課によると、高卒者の初任給(ボーナスを除く)は年間約百九十八万円で、時給に換算すると約九百四十五円という。
また、経験や技術を持った派遣労働者らが、事業者が代わった場合も引き続き勤務できるよう「労働者の雇用確保の継続に努めなければならない」とした。
さらに、条例に反する事例があった場合、市はその事業者と一定期間公契約を締結しないとし、入札の際には価格のほか、サービスの質▽人権擁護や環境保全などの社会的価値の実現-などを総合的に評価するとした。
法との整合性で課題も
公契約のあり方については全国的に議論が広がりつつあるが、条例化にこぎ着ける自治体は今のところなく、制定には課題も少なくない。
現在、最低賃金法に基づく県内の最低賃金は時給六百九十七円。同法の改正で、今月二十二日には七百十二円に引き上げられるが、素案で提示している市職員の高卒初任給を大きく下回る。「条例には反しても法は守っている」という事業者に、条例はどれほど有効なのか。また、使用者である事業者と労働者という民間同士の契約に行政がどこまで介入できるのか-などについても検討が必要になる。
さらに、市は競争入札によって外部委託先の事業者を決めるが、条例が制定されれば最低賃金を定めた中での入札となり、競争が働きにくい-という問題点も指摘されている。
今月九日、「-議員の会」が開いた市民への説明会では、労働組合のほか、各業種の経営者ら計約五十人が出席。ある事業者からは「時給が上がると年金がもらえなくなるから困る-といった労働者側の事情もある。ひとくくりに規定されるのはきつい」という意見が出たほか、素案で示された労働者の継続雇用については「自社から社員を派遣したいというのが本音。働く人は変わらず、派遣業者だけ変わるというのはどうか」という意見もあった。
「公が率先してワーキングプア(働く貧困層)をなくすべきだ」という声がある一方、外部委託による人件費カットなどで財政難を乗り切ろうとする自治体は少なくない。市民サービスの質も落とさず、これらの要請にどう応えるのか。議論の行方が注目される。
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