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従業員を解雇し廃業した京品ホテル経営陣の思惑
【日経ビジネスオンライン 2008/11/12】
(経済ジャーナリスト 松崎 隆司)
従業員全員を解雇し廃業した東京高輪にある京品ホテルの従業員46人が10月31日、地位確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状によると、京品ホテルは2007年度に1億円以上の利益がありながら、経営陣は経営を維持する努力もせずに従業員を不当に解雇し、会社を廃業したという。
経営陣が廃業を従業員に伝えたのは5月のことだ。当時の状況について東京ユニオンの渡辺秀雄委員長は次のように語っている。
「突然経営者から『建物が老朽化してこれ以上続けていけないことと、借金が60億円あることから、10月20日をもって従業員を全員解雇し、廃業する』と言われました。しかし、きちんとした説明は何もありませんでした」
その後従業員たちは経営陣などに対して解雇を取り消すよう団体交渉を進めてきたが、経営陣はこれに対して誠意をもって対応せず、10月20日には従業員に対して一方的に解雇と廃業を言い渡したという。
なぜ京品ホテルはこのような強引な手段で廃業したのだろうか。

京品ホテルは1871年(明治4年)から続く名門ホテルだ。当初は旅館としてスタートし、1930年(昭和5年)に現在の4階建ての建物が建てられた。客室数は52室で、宴会場や会議室も完備している。しかしその一方で老朽化の進んだ建物は、建築基準法に抵触。改装しなければ営業ができない状態になっていたという。
「社長は改装費には20億円必要だといっていたが、それだけの資金が調達できないといっていた」(渡辺氏)
それでも京品ホテルがある港区高輪4丁目10番地は新幹線も停車するようになった品川駅の高輪口の駅前ロータリーに面する好立地だ。周囲のホテルは予約が取れないような盛況を誇っている。京品ホテルには日本料理の「さが野」、居酒屋「酒蔵いの字」、「とんかつ七兵衛」、「串焼き釜飯ぎやまん」などの飲食店が入っている。
ランチ時などにはこうした飲食店に周囲のホテルの宿泊者や近隣に勤めるサラリーマンが食事に集まり、1億円以上の営業利益を上げていた。にも拘わらず、なぜ営業を続けなかったのか。
経営陣はホテルの老朽化とともに京品ホテルを経営する京品実業の経営実態をあげたという。
京品実業はバブル期にさまざまな事業に手を出し失敗、負債は60億円に膨らんだ。
しかし京品ホテルのある高輪4町目は高級住宅街といわれる高輪の中でももっとも地価が高いところだといわれている。しかも品川駅の港南口に続き、今後大規模開発が行なわれるといわれているところだ。
しかも隣接地は高輪の再開発に意欲を燃やす京浜急行電鉄グループの「WING(ウィング)」があり、京品ホテルのすぐ後ろには品川プリンスホテルが控えている。不動産会社なら喉から手がでるような物件だ。
ホテルの土地は当時路線価で50億円以上の価格があった。駅前の一等地であり、高輪駅前は再開発の計画があったことから、今後はさらにその値段は跳ね上がるだろうと考えられていた。
そのような中で京品実業に対する債権を一本化し急浮上したのがリーマンブラザーズ日本法人の債権買取子会社、サンライズファイナンスだ。
「水面下では経営陣と債権者の間で今年5月ごろ、話し合いがおこなわれ、土地を売却する話になっていたようだ。サンライズファイナンスがペーパーカンパニーのLCホテルズへ融資し、京品ホテルを買収することになっていた。そしてこの見返りに経営陣はサンライズファイナンスから3億円を貰ったという話も出ている」(同)
そして京品ホテルの経営陣は5月8日、経営の悪化と1930年(昭和5年)に建築された建物が耐震基準に満たさないことを理由に廃業と従業員全員の解雇を通達した。これに対して従業員は京品実業の経営陣とサンライズファイナンスに団体交渉を求めてきた。
「すでに京品実業の経営陣は交渉の当事者能力がなくなっていました。しかしサンライズファイナンスの方はきちんとした対応がなかった」(渡辺氏)
しかし昨年末からのサブプライムローンによる金融危機で不動産リートの資金繰りが悪化、さらにマンションデベロッパーなどの破綻で都内の不動産価格が下落。外資主導で急激に膨らんでいた東京都心の土地バブルが崩壊。地価が下落した。
「サンライズファイナンスは京品実業の60億円の債権を一説では30億円程度で買い取ったといいわれています。ところが都内の土地の下落で、路線価で50億円以上あるといわれている地価が暴落。債権の価格を下回ってしまったようで、サンライズファイナンスが動きが鈍くなった」(同)
LCホテルズへの売却も停滞しているという。そのような中で勃発したのがリーマンブラザーズの破綻だ。9月15日に米国のリーマンブラザーズ本社が破綻すると、今度は9月16日に日本法人が民事再生法を申請。子会社のサンライズファイナンスも破綻した。
10月20日には廃業と解雇が通告されたが、従業員は自主営業を続ける一方で、労働組合を結成、団体交渉を進めた。自主営業は10月31日の明け渡し時期が過ぎても続けているという。ちなみに京品実業が廃業したというのは廃業の手続きにはいったという意味。最終的にはすべての債権債務関係が整理できないと廃業できないという。
従業員は10月31日に廃業に伴う解雇が合理的な理由がないとして地位確認の訴訟を提訴した。自主営業はその後も続けているが、11月5日、会社側が立ち入り禁止の仮処分を申請した。この第一回審尋が11月17日16時から行なわれることになっている。
従業員側は「今後は事業を継続してくれるスポンサーを探し事業を継続していきたい」(同)と語っている。
果たして従業員によるホテル再建ができるのか、まだまだ目が離せない。
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